Gradation           
                                                                       


<1st gray>

 はっきり言って、どうでも良いの。
だいたい『今田彩子』なんて顔もたいして思い出せない程度の
友達だし。・・・って、友達かどうかも怪しいけど。
 だって、彼女入学してから夏休み目前の今までに、たった
3回しか学校に来てないし。
 私、存在感ない人苦手だし。『おはよ〜』の一言ぐらいしか
しゃべったこと無いと思う。

 「あ・・・、そう。 どうもありがとう・・・」
 先ほどから聞いてれば、ずいぶんひどい言われようだ。
仮にも4月からの4ヶ月間、同級生として出席簿に名前を連ねて
いただろうに。 しかも、故人に対して『どうでもいい』
などとよく言えたもんだ。
 リポーターはマイクを持つ手に力を入れながら、怒りを押さえつつ
次の同級生に話を聞くために、その場を移動した。
今朝は早朝から台風の接近の影響を受けて、横殴りの雨が傘を強く叩いた。
おかげで、インタビューも少し大きめの声でしないと、
はっきりと視聴者には聞き取れないありさまだ。
 しかし、そんな悪夢のような天候も、
自殺した女子高生の葬式のリポートとなれば絶好のシチュエーションになる。
 ただ足りない物といえば、葬式といえば必ず見かける
ハンカチを握り、悲しみに嗚咽する同級生や父母達が、
異常に少ないことだろうか。
 TVが来る事を事前に察知していたのだろうか、
同級生や同じ学校の生徒達は、その若い肌にバッチリと化粧をし、
3〜4人でグループを成してカメラに対して熱い視線をおくっている。
 リポーターは、黒い背広の肩口を濡らしながら、悲しみを
語ってくれそうなめぼしい人物を探した。
 「嶋ちゃん、もう少しなんかこう・・・
  暗いっていうか、悲しい雰囲気が欲しいよね。」 
 頭の悪そうな女子高生相手に仕事と割り切りつつも
落胆した表情で取材を続けるリポーターには、カメラマンも同情した。
 こっちが欲しいのは”涙”だった。
見ている視聴者も思わず涙してしまうような、悲しみに暮れる
表情だった。 無論、顔にはモザイクがしっかりとかかるが。
 「あ、いたいた! 泣いてる子いたよ! よかった〜」
 やっと見つけた最上級の”涙”の表現者を見つけ、リポーターは
雨などお構いなしに、思わず走り出した。

 「ねーねー千花ぁ、なんて聞かれたの?」
 半ば温くなり、解けかかったシェイクをだるそうにかき混ぜながら
外の雨を眺めていた千花は、相手の目も見ずにただ黙っていた。
 「千花? 聞こえてる?」
 千花にとっては、どうでもいいことだった。
 リポーターになんて聞かれたかなんて、別に話す必要ない。
TVに映りたくて目立つ集団に行ってたあんたがわるいんだよ。
 「涼子ぉ…あんた、何で泣いてなかったの?」
 千花はさっきから涼子に対して嫌悪の気持ちが湧いていた。
当然のことなのかもしれない。彩子と涼子は同じ中学から
入学してきた同級生なのだから、本当はもっと悲しんでも
いいんじゃないか? 
 千花自身は3回しか会ったことがない同級生でも、
涼子にとっては3年間同じ学校で過ごしてきた同級生である。
 (もう少し悲しんでもいいんじゃない…。)
 千花にしてみればそう思うのだ。
 しかし、涼子にしてみれば千花の言い分には納得いかないでいた。
 リポーターになんと聞かれたのかはわからないが、千花にリポーターが
張り付いてるのをみて、慌ててそちらに走り寄った涼子の耳に
飛び込んできた言葉は、『友達かどうかも怪しいけど』
という、なんとも冷たい言葉だった。
 会ったのはたった3回だけど、同級生だった事実もすべて
否定しているように、涼子には聞こえた。
 千花は冷たい。私が万が一死んだとしても何言われるか
わかったもんじゃない…。 
 「別に、悲しくなかったから泣かなかっただけだよ」
 先ほどからこみ上げてくるイライラは、どうやら雨のせいだけ
ではないらしい。 
 涼子はおもむろに立ち上がると、シェイクが半分残った
トレイを持ち上げ、千花に言った。
 「雨強くなってきたし、もう帰ろうか。」
イライラがうまく隠せていたかは解らない。でも涼子には
千花がはっきりとイラついていることは解っていた。
 「…うん。」
 千花はだるそうに立ち上がると、無言でトレイをかたづけた。
 頭が痛い。いろいろと考えて頭がパンクしそうだ。
 涼子は悲しくないといった。 私も悲しくない。
 そんな私たちを彩子の両親はなんて思うだろう。
 私のインタビューがTVで流れたら、ソレをみた人たちは
なんて思うだろう。 取材されたのが涼子だったら良かったのに。
 なんで3回しか会ったことない私が取材されるのよ…。
 千花の苛立ちは涼子に全て向けられていた。
 涼子が悪いわけではない。それはわかっている。
だけど苛つくのだ。 涙を見せない涼子にも、あんなひどい事を
言った自分にも。




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