さっきまで天にも昇る様な気持ちだった私は、すぐさま
奈落の底に突き落された。 この先会う度に こんな気持ちになるんだろうか? いつもいつも・・・ 私は『またね』といいながら手を振って、違う女に 会いに行く孝明を見送るのだろうか? でも、孝明は確かに約束してくれた。彼女は私だけ だと。 それでも孝明には『スル』女友達が沢山居る。 私はそれを知ってて孝明と付き合い始めた。 『付き合ってもいいけど、俺今のまま変わらないよ』 私は戸惑いながらもうなづくしかなかった。 だって・・・孝明がそういう人だって言うことを わかっていながらも好きになってしまったのだから。 付き合うのをOKされた後ではもう、後戻りは出来なかった。 | |
「亜紀はこのままでいいの?」
授業が終わり、私はボーっと窓の外の大きな木を 眺めていた。 そんな私を心配してか親友の昌美が やさしく肩を叩いた。 昌美は私が孝明と付き合うのを 最後まで反対していた。 昌美は私の前の席に座るとくるりと振り返り、 じっと私をみた。 本当は・・・ 「うん・・・ちょっと大変かも・・・」 思わず吐いた弱音。 孝明が他の誰かと一緒に居ても 嫉妬心よりもきっと”好き”の方が勝ってきっと 大丈夫で居られる・・・それは甘い考えだった。 「だから言ったじゃん。 好きだから平気じゃなくって 好きだからこそ、辛いよって」 あくまで昌美は私を責めるわけでもなく、やさしい 瞳で私に言った。 |
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「告白なんかしない方が良かったのかな?」
視線の先にあるグラウンドでは、孝明が友達と ボールを蹴っている。 「今更言ってもしょうがないよ。 それとも 別れたいの? 大好きな孝明と」 私の大好きな孝明は、濃紺の制服のズボンを真っ白に 汚してそれでも駈けずり周っている。 「二人で居る時はすっごく優しいんだよね。その時は 私だけの孝明で居てくれるの。でも、それ以外の時の 孝明には何も言わないっていう”契約”だから。」 「”契約”?」 | |
”契約”の件は昌美にも話していなかった。
私自身孝明が口にした”契約”が信じられなかったし、冷静に ”契約”について考えられるようになったら話そうと思ってた。 「孝明と付き合う時ね言われたの。 『付き合うのは契約 だから、それが守れるなら付き合う』って。内容聞いて かなりヒイたけど」 おかしなことに薄ら笑いがこみ上げてくる。 ・・・馬鹿馬鹿しい。こんな契約破ったっていいのに。 昌美ならきっとそういうだろう。 現に私もそう思う。 孝明の浮名は学校中でもかなり有名だった。 ルックス的にはそれほどでもないけど、誰よりも優しく、 何より行事関係で目立っていたから、先輩後輩関係なく、皆 孝明にあこがれていた。 |
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何人か告白したと聞いたが、誰かと
付き合っているという話は、聞いたことがなかった。 今思うと皆孝明の言う”契約”が我慢できなくって 付き合うにいたらなかったに違いない。 付き合うと辛いけど、たまに会って”愛し合う”なら 辛い思いはしなくていいし。 って誰かが言ってた。『彼女』という茨に自分が縛られ 辛くならないように、皆楽な道を選んだのかもしれない。 『俺には大切にしなくちゃいけない人が 沢山いるんだ。その人たちを犠牲にしてまで彼女を 作りたくない。もし安納さんが犠牲にしなくてもいいって 契約してくれるなら、付き合ってもいいと思ってる』 私は孝明が口にした最初の言葉に驚きつつも、最後の 一言に有頂天になり『それでもいいよ・・・私』と言ったのだ。 | |
「そんなの奇麗事だよ。 孝明は自分を
正当化してるだけだよ。なんでそんな契約したのよ」 昌美は怒って机を叩き、すぐに握り締めた。 昌美はまだ何か言いたそうだったが、高らかに鳴り響く 始業のチャイムがそれをさえぎった。 「亜紀・・・騙されちゃだめだよ」 そういって昌美は一番前の自分の席に戻っていった。 グラウンドを見やると、孝明たちは校門を越え校外へ 走り去っていった。 そう。二人で居る時以外の孝明は私のものじゃない。 他のだれでもない、孝明のものなんだ。 きっと孝明は私のこんな揺れまくってる気持ち気付いてない。 いや、気付いたとしても知らない振りしてまた笑顔で 私の前に現れる。 そしてその笑顔を私はまた許してしまうんだろう。 |
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